以下に示す手順で本研究を遂行した。 1.自動車の車室内騒音の発生機構の調査:自動車の車室内騒音発生の主な原因は、エンジンこもり音と荒れた路面を走行する際に生じるロードノイズである。前者は周期的な騒音であるが、後者は白色性に近いランダムな騒音であり、アクティブ制御の観点から見ると、制御が困難なものである。特に、従来から用いられているLMS(平均最小二乗)法では、騒音の消音を十分には行えないことが明らかになった。 2.車室内騒音を模擬するシミュレータの作成:本田技研(本研究室に本田からの社会人ドクターの学生が在籍している)からいただいた車室内騒音の実データをもとに、パソコン上に車室内騒音を模擬するシミュレータを構築した。このシミュレータでは、車速とともに騒音が変化する非線形特性を考慮した。 3.非線形システム同定法の開発:研究代表者が従来から研究を続けている最小二乗法に基づく線形システム同定理論を、あるクラスの非線形システムの同定問題へも適用できるように拡張した。このとき、同定入力に要請される条件について検討し、周波数成分と振幅成分に関する必要条件を導いた。 4.有効性の確認:3.で開発した非線形同定法を2.で作成したシミュレータに対して適用し、数値シミュレーション実験を行い、その性能について調べた。また、実際にDSPを用いた実験装置によって有効性の確認も行っている。その結果、本研究で提案した方法は、従来のLMS法と比べて消音特性がよいことが明らかになった。
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