大規模宇宙構造物や熱拡散系など、空間分布の挙動が本質的となる対象について制御系設計を考える際、分布定数システムでモデル化しそれを有限次元化することが一般的である。この場合、低い近似項数でかつ十分な精度の近似を行うことが、性能の優れた制御系を合理的に実現するために必要不可欠である。シミュレーション技法として定評のある重みつき残差法をベースとし、静特性と動特性を分離して近似を構成する着想に基づいて提案された静特性補償法は、制御入力の広い周波数帯域について優れた動特性の近似が得られることが1次元放物型分布定数系への適用例について明らかにされていた。本研究は、静特性補償法を空間多次元な系に適用してその有効性を検証するとともに、それを不安定系にも適用可能な手法として拡張することで、制御系設計における分布定数系のモデリングを支援するツールの確立を目指すものである。 本研究では多次元空間領域上で定義された対象へ静特性補償法を適用するために大きく次の2つの問題を検討した。一つは対象の制御入力に対する静特性の解析の問題であり、ワークステーション上の汎用有限要素法解析コードの有効性を検討した。もう一つは得られた静特性を組み込んだ動特性モデルを具体的に計算する問題であり、数値積分に基づく従来の方法によると多次元系では計算量の増大により処理が困難となるため、数式処理系を援用して効率よくモデルを求める方法を開発した。 近似モデルの有効性は、開ループにおけるシミュレーションの性能とそのモデルから得られた制御系の性能の2点から検証した。前者は制御入力に対するモデル出力の誤差をワークステーション上で数値的に時間領域および周波数領域について調べることにより評価した。また後者については、近似手法の違いが及ぼす制御系の閉ループ特性およびロバスト性への影響の理論的な考察を行ったが、特にLQG設計法を取り上げ、オリジナルの分布定数系制御問題とその近似問題との関わりを明らかにした。 本手法を不安定系に対して拡張するために、特異摂動法との関連をまず明確にした上で虚軸シフトと平衡点に基づく手法を考案した。例題として放物型の無定位系および双曲型の非減衰系を対象にプロトタイプモデルを構成し、上記の検証手法を応用して有効性の検討を行った。
|