研究概要 |
平成5年度は,個性や意志を持った「ひと」の動きを定量的に解析するモデルを構築すると共に,常時・非常時の人間行動シミュレーションから,実際に存在する地下街の総合的安全性の定量的検討法を提案する第1ステップを完了した.本研究で提案する解析手法とは,個別要素法(DEM)に基づく人間行動解析モデルであり,1人の人間を個性を持った1つの個別要素として扱うことによって,1人1人の人間の動きまで微視的に追跡できるモデルである.ただ従来のDEMと違う点は,個別要素が挙動する環境をポテンシャル場として表現し,そのポテンシャルを要素別に与えることによって個人特性を考慮した解析を行う点である.すなわち,その人間行動空間を,出入口や案内表示などの設備配置による「外的要因ポテンシャル」,知識や性格・個性などの「個人的要因ポテンシャル」,煙・火事・非常放送などの「災害要因ポテンシャル」の重ね合わせとしてシミュレーション空間を実現する.このモデルを用いて,まずモデルの妥当性を検証する基礎解析を行い,次に地下鉄大手町駅・川崎市大規模地下街アゼリア構内の避難行動のシミュレーションを行った.その結果,提案する手法によって常時・非常時の人間行動が解析できるめどが立った. 本研究で提案するポテンシャルを用いたDEMによって,力学的な諸条件はもちろん,その要素を取り巻く様々な環境(人間工学的反応に影響を及ぼす要因,例えば,外的刺激としての情報,個人特性など)まで含めたモデル化が可能になった.また本手法を用いたシミュレーション解析が,既存施設(地下街を中心として)の総合的安全性の検討と将来の安全な施設設計に有効であることが示された.
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