研究概要 |
遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm,GA)は、選択淘汰、交叉、突然変異といった生物進化の原理に基づく最適化手法で、多点探索を行うという点で他の最適化手法とは大きく異なる。本研究では、流出モデル定数の同定にGAを適用し、その適応性を検討した。さらに、GAそのものではないが、GAに類似した進化の概念を取り入れたSCE-UA法についても同様の検討を行った。その概要は次のようである。 1.GAによるタンクモデル定数の同定 GAを16個の未知定数を持つ直列4段タンクモデルの定数探索に適用した。ここでは、永源寺ダム流域の日降水量、蒸発量、および、それらを適当な定数(真値)を設定したタンクモデルに入力して得た日流出高を用いて、16定数ないしは8定数の同定を数値実験的に試みた。この結果、16定数の同定では、ほぼ真値が同定されている定数(第1段タンクの6定数)もあるが、真値とかなり異なる値が同定されている定数もあり、厳密解を得るには到らなかった。一方、探索する定数を流出孔と浸透孔の8定数に絞ったときは、ほぼ真値に近い定数を得ることができた。 2.SCE-UA法によるタンクモデル定数の同定 最近、米国アリゾナ大学で開発されたSCE-UA法(Shuffled Complex Evolution Method)は、局所的探索法の一つであるシンプレックス法にランダム探索、競争進化、集団混合の概念を取り入れた大域的探索法である。この方法をタンクモデル定数の同定に適用するとともに、その適応性をシンプレックス法と比較した。青蓮寺ダム流域の資料に基づいてGAと同様の数値実験を行ったところ、シンプレックス法によって同定された定数は、探索出発点によってかなりばらつくのに対して、SCE-UA法では、探索出発点に関わらずほぼ真値に近い定数が同定できることが分かった。
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