研究概要 |
表層土壌は、様々な生成因子(母岩、生物、気候、地形、年代、人為)の組合わせの下で、腐植および塩類の蓄積と分解、物質の移動と集積、酸化還元等により、その環境に特有の土壌型および断面形態を形成する。雨水等と共に浸透する有害物質の土壌による保持を考える場合は、土壌型とともに土壌の層位毎の特性を考慮する必要がある。表層土壌の有害物質保持特性の調査においては、土壌に対し目的物質を添加し、バッチ法またはカラム法によりその物質の固液間分配を検討する方法がよく用いられる。しかし室内実験によっては、フィールドにおいて土壌断面の形成にも係わる複雑な環境条件を再現することは困難である。そこで、本研究では、野外において80cm深さの鉛直断面で5-10cm毎に採取した土壌および間隙水中の元素濃度から分配比を算定し、土壌の有害元素保持性能を推定することを試みた。なお、供試土壌については、外部の汚染源からの有害元素の負荷はほとんどないと推定されるため、ここでの分配比は、溶脱元素の固液間分配に関するものである。 土壌間隙水中の元素濃度は、誘導結合プラズマ-質量分析法およびフレーム原子吸光法により測定した。固相中の元素濃度は、機器的熱中性子放射化分析法、蛍光X線法、散分解後、誘導結合プラズマ-発光分析法・グラファイト炉原子吸光法により測定した。これらの手法によりCr,V,Al,Ba,Zn,Cd,Ni,Co,Cu,Se,Pb,U,Th等の有害元素の他、Si,Fe,Mn等の主成分元素、希土類元素等が検出された。特に、Zn,Cs,Ba,Mn,Cr,Co,U,Na,Mg,Ca,V,Rbについて、土壌断面上部において分配比(土壌/土壌溶液)が一様に低く、下部で一様に高い傾向が観察された。これは、(1)上部断面土壌の方が下部に比して風化が進行し、かつ腐植質等の陽イオン交換性収着座に富む構成成分が多いため、含有元素の溶脱性に富む、(2)上部の方が、土壌溶液中の主成分元素(Na,K,Mg,Ca等)濃度が高いため、溶液中微量元素の固相への収着が生じにくい、等の原因が考えられる。
|