建築壁体材料の、温度勾配による水分拡散係数の温度依存性を定量的に把握することを目的とする。そのため、温度勾配による水分拡散係数の測定実験を、同じ温度差で異なる温度帯を持つ2つの材料に対して行い、次に測定された拡散係数を用いて、結露再蒸発過程にある材料内の水分挙動の数値解析を行なった。建築壁体として用いられる多孔質材料を対象として、一定含水率を持つこれら試料を全面断湿した後、10℃〜40℃と40℃〜70℃という2種類の温度差を設けた。それぞれの実験において試料内部の含水率分布と温度分布の経時変化を測定した。含水率・温度分布が動的平衡状態になった時点の含水率・温度勾配測定値から温度勾配係数を算出し、2つの実験に対する温度勾配による水分拡散係数を求め、比較検討した。これら測定された水分拡散係数を用いて、それぞれの場合について、結露再蒸発過程にある試料の内部水分挙動を計算した。今回の実験では、平均温度が高い場合と低い場合に対する温度勾配による水分拡散係数の間の分布傾向には有意な差は見られず、従って水分拡散係数の温度による影響は少ないと思われる結果となった。そして、それから得られた水分拡散係数を用いた壁体内部水分挙動解析計算の結果も有意な差は見られなかった。しかし、今回の実験は、ある温度差における特定の状況下におけるものであり、他の温度差ではどういう結果になるか分からない。今後、今回の実験とは異なる温度差を付けた同様の実験を行い、今回の結果と比較検討することによってさらに温度依存性について検討していく必要がある。今回の結果のみを信用すれば、壁体内の水分挙動解析計算には、温度の絶対値の影響は考慮する必要がなく、それゆえ計算も簡略化でき、速く且つ正確な計算が出来ると言うことが出来る。
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