愛知県東部の豊川用水地域は、わが国有数の先進農業地域である。この地域の農業の特徴は、施設園芸、畑作農業、畜産を経営作物とする高収益農業を維持している点にある。しかし、この高収益農業は、家族以外の労働力を不可欠とする雇用農業の経営形態をとることによって維持されているのが実態である。本研究では、(1)農業高度化に伴う農家層の分解・多様化の実態と労働力調整を中心とした地域共同性の変化、(2)雇用農家・企業型農家の労働力確保・土地経営の実態、(3)雇用農家・企業型農家の増大に伴う農業生産組織及び土地利用の調整課題の3つを具体的な研究課題として、農業センサスの統計分析、現地インタビュー、雇用農家に対するアンケート調査の分析結果から考察を進めた。その結果、全国の先進農業地域・高収益農業地域との比較において、豊川用水地域の農業の地域特性を明らかにするとともに、この地域内部でも都市近郊農村地区と一般農村地区では、雇用農業の経営形態が大きくことなること、特に都市近郊では非雇用者が一般の都市住民・主婦であるのに対して一般農村地区では農家間の雇用によって労働力を確保していることが明らかになった。また、農家の企業化、経営作物の専門化(単一経営化)の進行に伴い、耕作放棄地の増大、土地利用の特化も進んでいることも明かにできた。しかし一方で農業の企業化がすすむなかでも、集落内や親族間で伝統的な相互扶助や共同作業が維持されていること、雇用農家の積極的な地域行事への参加が確認でき、地域農業・地域社会の要としての雇用農家・企業型農家の役割を評価することができた。そして、先進農業地域の社会・空間の再編においては、雇用農家・企業型農家が先進農業地域の農業をリ-ドし、かつ地域農業の要となる役割を担う存在であること、雇用農業・企業型農業の発展には一般都市住民との連携、兼業農家の連携が不可欠であることが明らかと った。
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