研究概要 |
1.「居室を分からせるための工夫」「便所を分からせるための工夫」などの痴呆性老人のための物的環境のしつらい・工夫点について事例を収集するため全国の特別養護老人ホームに対して郵送調査を行い,計2,580件の意見を分類・整理することができた。 2.痴呆性老人の空間の認知に対する観察・実験として,痴呆性老人専用の特別養護老人ホーム2施設の中から14名の対象者を抽出し,居室,食堂・デイルーム,便所についてその位置を,〔見えない地点〕〔見える地点〕〔その部屋の直前〕でたずね,行動観察も加え,何を手がかりに,どのように把握しているか捉えた。また,属性として,既存の痴呆の程度をはかる精神医学的2つのスケールを用いて捉え,その属性と空間認知の特性の関係をみることにより,空間を把握するために残存している機能と空間のしつらえの工夫点のあり方を建築計画の立場から考察した。 3.医学的に重度の痴呆と判定される入居者であっても,日常生活的に利用している居室,食堂・デイルーム,便所については,何らかの手がかりとともにその位置を認識していることが捉えられた。精神医学的に捉えられる機能がかなり失われていても痴呆性老人の生活空間の認知・把握はかなり可能であった。その手がかりとしては,単なる文字や絵による指示だけではなく,2〜3室ごとに小さなまとまりをつける,居室の入り口に入居者の馴染みのあるものを飾る,などのほか特徴ある空間のしつらえ,施設の規模を小さくすること,高齢者の視野の内に明快な目印をもうけるなど建築計画的な工夫によりその残存機能を活かすことができ,介護軽減や生活の自立につながる可能性があることが捉えられた。
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