本研究の目的は、平安鎌倉期の都市住宅の全容解明を目指す研究の一環として、まず中下貴族層の住宅に焦点をしぼり、その実体解明によって、当時の都市における住宅が有した特質の一端を明らかにすることであった。 さて、従来からこの分野で資料として活用されてきたのは、主に公家日記を中心とする古記録類であるが、本研究では、それ以外に土地家屋の売買証文である家地売券などの文書類や、当時の社会状況を描く説話・物語あるいは女流日記といった文学史料、さらには絵巻物を中心とする絵画史料等がきわめて有用な資料となる。そこで今年度は最大限時間と労力を費やして、それら関連資料の収集・整理にあたってきた。ただ、同じ貴族でも、上級層の住宅については多くの資料が残されているため、比較的その実体を把握しやすく、したがってまた多くの研究が蓄積されてきたわけなのであるが、しかし本研究が対象としている中下級貴族層のそれについては、実際には資料に十分恵まれているというわけではなかった。そのため現在までのところ、当初の目的にかなう成果を挙げるところまでには残念ながら至っていないというのが実状である。 そこで、当初の研究目的遂行のためには、今まで行って来た関連資料の収集・整理を今後もさらに継続して行うことがその基礎的作業として不可欠であって、さらにその上で、都市史や歴史学・国文学といった関連領域での研究成果を生かしつつ、古代、中世住宅が都市空間に占める機能・役割やその景観的特徴を実証的に解明していく必要があろう。
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