研究概要 |
単結晶金属人工超格子中では,弾性的な拘束に起因して双方の金属の格子定数がバルクの状態におけるそれとは異なる状態を実現できる.我々は,従来Au(001)上のPtの成長について界面格子緩和を調べてきた.本年度はこれを拡張して,Pt(001)上のAuの成長およびAu/Pt/Au(001),Pt/Au/Pt(001)の三層膜における原子間隔および界面格子緩和現象を調べるとともに,平衡状態図的には存在し得ない組成のPt-Au固溶体薄膜の成長を試みた. Pt/Au(001)とAu/Pt(001)の結果を比較したところ,積層順を逆にすると界面に導入される不一致転位の型が異なることを見出した.通常の静的な弾性論では,両者に導入される不一致転位の型は同じであるとの取り扱いが成されることが多い.しかしながら,人工超格子の場合には成長時の動的な観点(積層順)から現象を検討することが重要であることがわかった. 三層膜中でもPt/Au(001)とAu/Pt(001)界面に導入される不一致転位の型は異なった.特に,Pt/Au界面上には不動転位が導入されるため,転位のすべり運動のみを考慮したMatthews-Blakeslee機構では界面格子緩和現象を説明できない.この場合も,動的な成長過程を考慮する必要があった. また,状態図的には相分離を起こすことが期待されるAu_<0.3>Pt_<0.7>合金薄膜をAu(001)基板上に成長させると,単相のAu-Pt固溶体薄膜が成長する事がわかった.これは,下地の弾性拘束の影響で,相分離を起こすことが弾性エネルギー的に不利となることに対応していると考えられる.このような下地の弾性拘束を用いることにより,バルクでは存在し得ない組成・原子間隔を持つ固溶体を成長させることが可能であることを示した.
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