Ti-Ni形状記憶合金に種々の元素を添加することにより、低温で出現するマルテンサイト相の変態温度は大きく変化する。また、溶体化材のTi-Ni合金で出現するマルテンサイト相の結晶構造は通常B19'であるが、第3元素の添加によって、R相と呼ばれている三方晶系のものやB19構造のものがしばしば出現する。添加元素によって変態温度が変化することや異なった相が出現することは今までに数多くの研究がなされているが、それらの変化に関する系統的な理解はまだ得られていなかった。本研究では種々の添加元素(Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Pd、Au)をTiかNiあるいはその両方と置換するように添加し、その原子位置をALCHEMI法を用いて調べた。さらに、DSC測定によりその合金の変態温度測定を行い、また、X線回折により変態した後の結晶構造を調べた。さらにまた、それらの結果から添加元素の種類やその原子位置が種々の相の安定性にどのように関連しているのかを明らかにした。 得られた結果の概略は以下のとおりである。 1.TiとNiサイトのいずれが他元素に起き変わってもB19'マルテンサイト相の変態温度は低下する。 2.添加した元素の価電子数が占有しているサイト(TiあるいはNi)のそれと大きく異なるほど変態温度の低下は大きい。 3.R相は、第3元素がNiサイトを占有し、しかも価電子数がNiのそれより少ない場合に広い温度範囲にわたって出現する。 4.B19相は、第3元素がNiサイトを占有し、しかもその価電子数がNiより多い場合に広い範囲にわたって出現する。 上述したように、本研究では添加元素の種類やその占める原子位置によって、出現する相がどのように変化するのかが系統的に理解できることがわかった。このことは、第3元素の添加による価電子数の変化が相の安定性に重要な寄与をもたらしていることを示すものであり、興味深い。
|