最近、急速な進歩を遂げている電子線ホログラフィーは物質を透過していない電子線を参照波として用いるため、物質を透過した回折波の干渉で結像する多波構造像と比較して位相差の絶対測定として特に優れている。本研究では、電子線ホログラフィーを原子空孔や格子間原子の微小な集合体を含む結晶の構造解析への適用の可能性の検討として電子線位相像及び強度像の計算を行い、極微小点欠陥集合体の検出方法を探ることを目的とする。強度像においては、加速電圧1300kVではScherzer's defocus付近、特に30nmで非常に鮮明な欠陥構造に対応した像が得られた。しかし、加速電圧200kVでは、位相コントラスト伝達関数の急激な変化によって、シフトしている原子への敏感な反応、または欠陥によるひずみの影響がコントラストに影響を及ぼし、欠陥部分への増強度の影響は観察できるが、欠陥構造に直接対応する像を得ることはできなかった。それから、本研究で対象としたような微小点欠陥集合体の構造を求めるのはきわめて困難である。加速電圧1300kVにおいて差引きの結果から、Scherzer's defocusまでは原子空孔部分がプラス、格子間原子部分がマイナスに対応していて、それ以降ではこの関係が反転し像が拡大されていることがわかった。また、300Kにおいては欠陥部分以外の原子も熱振動により平衡位置からのずれが強度の差引きに大きく影響を与え、結晶全体にコントラスト異常が広がっていた。また電子線位相像の計算結果、強度像と比較して欠陥構造との対応が欠陥部分との対応が良好であった。完全結晶との相対的な位相差は1原子空孔の場合2pi/50程度であり現在の電子線ホログラフィーでの検出限界と同等であることがわかった。
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