報告者らは、金属タングステンあるいは炭化タングステンに過酸化水素水水溶液を作用させると、新しいタイプの過酸化ポリタングステン酸が生成することを見いだした。この酸の水溶液から得られる非晶質薄膜は、深紫外線、電子線などの放射線に感応し、水系溶媒に対する溶解度が著しく変化するのでマイクロリソグラフィー用無機レジストとして興味がもたれる。また、本ポリ酸塩を前駆体とする低温焼成法により、応用上興味のある新規複合酸化物が得られることも前年度の研究によって明かになってきた。しかし、このポリ酸は非晶質としてしか固体化し得ないので単結晶X線構造解析が適用できず、ポリアニオンの詳細な構造は未確定であった。 本年度の研究では、非晶質X線回折によって提案された過酸化ポリタングステン酸のアニオン構造モデルを検証するために、赤外、ラマンの各分光法を用いた。その結果、調整当初の過酸化ポリタングステン酸は、WO^6八面体の稜共有による三員環と、同八面体の一カ所を過酸化物基により置き換えた五角両錘の頂点共有による六員環が結合してできたクラスターからなることがわかった。このクラスターの稜共有部分は熱処理により解裂し、頂点共有のみからなる構造となるが、この解裂は80℃を境に起こることがわかった。深紫外線を照射した、試料では、処理により温度はさほどあがっていないにも関わらず、稜共有部分は失われていることがわかった。また、縮重合に伴い酸素が放出されるが、その一部は固体中に捕獲されていることがラマン分校法により明かとなった。
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