研究概要 |
本研究では酸化物強誘電体の結晶構造と電気特性の関係について分子軌道法及び格子力学法を用いて分析することを目的とした。 まず、結晶構造と電気特性の関係について調べた。酸化物強誘電体であるPb(Zr,Ti)O_3の誘電・圧電特性を組成・温度を変えて測定した。また、高温粉末X線回折法の測定を行い、結晶構造の組成・温度依存性を明らかにした。その結果、圧電特性の温度依存性は主に誘電率の温度依存性によって説明できることが確認された。また、結晶格子の単位格子体積の熱膨脹率が大きいほど誘電率、つまりは圧電特定の温度依存性が大きいことも明らかとなった。これは温度上昇により単位格子体積が大きくなるとイオン間の束縛が小さくなり、外部電界により分極されやすくなる結果、誘電率が大きくなることで説明できる。 次に、電子論的側面から分析をするために量子化学的なバンド計算手法の開発を行った。従来、簡便なバンド構造計算法として、パラメータ化したTight Binding法が用いられているが、この方法は複雑な系を短時間で計算できる反面、各原子毎に必要なパラメータが機知である必要がある。そこで本研究では第一原理計算であり、経験パラメータの必要ないDV-Xa法を用いて、Tight Binding法に必要なパラメータを計算した。Pb(Zr,Ti)O3と類似した構造を持ち、他の手法での報告例が多いSrTiO_3についてこれらのパラメータを用いて計算を行ったが、この方法で得られた結果は今までの報告例とよく一致し、また、光電子分光・紫外分光スペクトルの測定結果とも良い一致が見られた。これらのことから、本手法が酸化物のバンド構造を半定量的に、しかも簡便に行えることが示された。 本研究では最終的にバンド計算により、固体内原子間のポテンシャルを計算し、格子力学法により電気特性をシミュレーションする必要がある。このためには、バンド構造から精確にエネルギーを見積もる手法を開発する必要があるが、これは次年度以降の課題として残されている。
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