当初の研究計画に基づき、単光束法による非線形屈折率の評価・解析を遂行した。試料として非線形光学感受率が極めて大きいとされている半導体微粒子分散ガラスを選択した。Nd:YAGレーザーの第二高調波である、波長532nmの光を励起源とし、吸収端が近共鳴周波数領域となる複数の試料に対して単光束法を適用したところその非線形光学感受率は従来報告されている値よりも数桁ほど低いことを見いだした。また、非線形感受率の実部及び虚部の符号はそれぞれ負および正であり、吸収端の近共鳴領域からの離調に伴ってそれぞれの絶対値は低下した。従来法での評価値との不一致は、その光学過程の違いに起因すると考察した。すなわち、単光束法に対して従来用いられていた縮退四光波混合法では、純粋な非線形光学効果に基づく位相共役波の発生と同時に、他の因子、たとえば光化学反応による永久回析格子の形成による疑似信号光が発生し、後者の効果が大きいために見かけ上の非線形感受率が過大評価されることになる。一方、単光束法では原理的に回析格子の形成を担う光波の干渉作用が含まれないために純粋な非線形光学効果のみを評価できたといえる。この効果のうち、二光子吸収係数を支配する非線形感受率の虚部が有意な値をとることは、本材料の光学非線形性を実用に共する際に重要となる事が示唆された。すなわち干渉作用が起こる条件下で二光子吸収に伴う欠陥または色中心の形成を制御すれば本材料を光メモリーとして活用できる可能性がある。
|