本研究では、物質中において原子をピン止めすること(Pinning)にって、アモルファス合金の結晶化温度を引き上げることを試みた。対象とする材料にFeSi^2を選び、スパッタリング法によりアモルファス構造をもつ薄膜を作製した。膜中においてFe原子よりもSi原子と優先的に結合するGeをピン止めする不純物原子として用いた。実験では、FeSi^2に対してGeをX=0〜20mol%添加したアモルファス薄膜の熱処理を行い、X線回折解析と電気伝導度の測定などにより、結晶化のメカニズムについて調べた。その結果、FeSi^2-Ge薄膜において、結晶化の活性化エネルギーEaはGeの添加量Xとともに単調に増加すること、そして、そのために結晶化温度Tcが上がることがわかった。EaとTcの値は、X=0のとき、Ea=2.2eVおよびTc=420℃、X=20のとき、Ea=2.7eVおよびTc=470℃であり、Geを20mo%添加することにより結晶化温度は約50度上がった。 また、セラミックスにおいて結晶粒成長を抑制するためのピン止めの効果について検討した(この場合、試料はバルク体であり結晶化している。)実験では、FeSi^2系セラミックスに不純物としてSiGeをY=0〜30mo1%導入した。SEM、EPMA観察により、添加したSiGeはセラミックス中によく分散しており、そのために結晶粒の成長が抑えられていること、さらに、SiGeの添加量が増加することにしたが FeSi^2の結晶粒径が小さくなることがわかった。ところで、FeSi^2は熱電変換材料であるが、この変換系では熱伝導率が小さいほど変換効率が高くなる。試料の熱伝導率はSiGeの添加量Yとともに減少して、Y=10mol%のときには無添加試料の約80%の値となった。これは、結晶粒界でのフォノン散乱が強くなったことによるものである。FeSi^2熱電材料においてSiGeを添加して結晶粒成長の抑制により性能を改善できることがわかった。
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