クロムの延性、室温脆性のメカニズムを理論的、実験的に調べ、その本質を理解するための第一段階として、延性の雰囲気による効果について超高純度クロム試料を用いて破壊実験を行い、真空、水素雰囲気等の試験環境相違による環境効果について詳細に検討した。以下にその概要を報告する。 1.クロムの室温脆性と環境の効果:超高純度圧延クロム(純度99.98%以上)試料について空気(大気、乾燥空気)、真空、窒素、酸素および水素の各雰囲気で小型パンチ試験および三点曲げ試験による延性評価を行った結果、金属クロムの延性に環境効果がみられ、大気中で最も大きな延性を示すことが判明した。これは大気中の水分による影響が最も大であり、クロム表面の被膜の形成に関与していることが考えられる。事実、水中ではさらに大きな延性を示した。加えて、金属クロムには水素脆化が存在し、変形速度の低下に伴いその現象を顕著に示した。一方、金属クロムの延性一脆性遷移温度は従来の報告よりも低温側に位置し、小型パンチ試験の結果では大気中で約313Kであった。 2.室温脆性改善のための方策の検討:金属クロムの延性がクロム表面の被膜に関与することを踏まえて、室温における脆性改善の予備的指針について検討した。Cr-0.5%M(M:3d遷移金属)合金の水溶液腐食試験の結果および購入したパーソナルコンピュータを用いた電子論による理論的検討の結果、NiやMg等数種の添加元素が延性改善に有効な元素として選択できた。今後これら元素の効果を系統的に調べ、合金の最適成分の検討と合金設計による室温脆性の改善について検討し、クロムの新材料としての利用のための可能性について探究する。
|