[研究の目的] 材料の耐食性を向上させる絶縁体セラミックス系被覆や高耐食性合金上の表面皮膜は、切削などの機械的破壊に対して皮膜自体の自己修復機能は無く、この段階で防食機能を失うか、母材の新たな酸化により皮膜が修復されるかのいずれかである。本研究では、物理蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)により酸化物薄膜中に酸化物ソースとなる金属層を挿入した薄膜を作製し、機械的破壊に対して自己修復性機能を有し防食被覆となる酸化物/金属多層膜を創造することを目的とした。 [研究実施計画および実施結果] (1)酸化物/金属多層膜の作製 PVD法の一つであるイオンビームスパッタ蒸着法を用いて純鉄基板上に酸化物/金属/酸化物多層薄膜を作製した。その結果、各種の層構造を有する密着性の良い酸化物/金属多層膜試料を作製することができた。また、現有の装置ではCVD法による金属層の形成が困難であり、CVD法を用いた試料の作製は行えなかった。 (2)多層膜における自己修復性機能の評価 純鉄基板上に作製した多層膜に引っ掻き傷をいれ、多層膜中の金属層と下地金属の電位と金属層と対極間に流れるカップリング電流を溶液中でその場測定した。その結果、傷入れ後の電流値と下地金属の電位の経時変化から多層膜中の金属層の酸化により自己修復性防食機能を示すことが確認された。 (3)多層膜中の各層厚さや構成層の違いによる自己修復特性の変化の評価 金属層がアルミニウムとニオブの多層膜を作製し構成層の違いによる自己修復機能の違いを検討した結果、金属層に依存して自己修復特性に違いが観察された。各層の厚さによる自己修復特性の変化については実験が行えなかった。
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