表面波による微小領域の応力測定を実用化するための基礎的研究として、超音波スペクトラム顕微鏡を用いた実験的アプローチを行った。得られた結果は以下のとおりである。 1.表面波速度測定の高精度化 応力測定の基礎は表面波速度を精度よく測定することである。そこで、超音波スペクトラム顕微鏡を用いて微小領域野表面波速度を精度よく評価する手法を開発した。この手法による表面波速度の測定精度は約±0.06%であった。これにより表面波速度測定における再現性に関する問題はクリアされたと考えられる。 2.音速に影響を与える微視的因子 微小領域の音速測定では結晶異方性の影響により、必ずしも材料の巨視的特性と同じ音速値が得られるとは限らない。そこで、測定領域を20〜100mumの範囲で変化させて表面波速度を測定した。その結果、測定領域の大きさが結晶粒径の数倍になると結晶異方性による音速の変化が確認された。このことは、微小領域の音速測定、すなわち応力測定において注意すべき重要な点である。 減衰測定法の開発 表面波の減衰特性もまた応力評価のための有力な指標となる可能性がある。そこで、反射率測定に基づくスペクトロスコピー法による減衰評価法を開発した。 4.ミクロ応力とマクロ応力による音速変化 予備実験として30〜50MPa程度の残留応力を有する炭素鋼の表面波速度を測定したところ、応力の影響はほとんど現れなかった。現在、さらに大きな応力状態のもとで、残留応力に代表されるミクロ応力と材料全体に作用するマクロ応力が音速に与える影響の違いを調べている。この結果により、音速により評価される応力値の物理的意味が明らかになるものと考えられる。
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