ナノメーターオーダーの超微粒子のミクロな熱物性を評価するために、粒子の加熱による輸送現象、粒子径・形態の変化について実験的・理論的検討を行った。実験ではまず、金属蒸気の冷却・凝縮、ならびに金属錯体の熱分解化学反応によって、銀と非結晶あるいはアナターゼ型の酸化チタンの超微粒子を気相で製造した。これらの粒子は単一粒子あるいは直径数nmの多数の一次粒子で構成された凝集粒子であった。N_2、He、Arなど粒子や薄膜の製造プロセスで使用される代表的なキャリアガス中に浮遊させたこれらの微粒子(粒子径7〜100nm)を、静電分級操作で粒子径を均一に揃え、管状電気炉を設置した円管内に導入して1400゚Cまで約1〜3sの時間加熱した。 その結果、粒子径が小さく、また円管の壁面の温度分布が大きくなるにつれて、管内を輸送される粒子の壁面沈着による損失が増大することがわかった。また凝集粒子を用いた実験では、銀粒子では約200゚C、酸化チタン粒子では約800〜1200゚Cの加熱によって、一次粒子同士の焼結が起こり、凝集体が緻密化して粒子径が減少する様子が観察された。さらに銀粒子は、融点よりも十分低い約800゚Cで蒸発により消失した。 以上の実験結果を理論的に説明するために、加熱円管内のガス流速と温度分布を数値計算で詳しく解析した後、粒子のブラウン拡散と非等温場での熱泳動による輸送を考慮した拡散方程式、ならびに粒子材質の物性やその粒子径による依存性を考慮した焼結と蒸発による粒子径の変化速度を表す式を導出し、やはり数値計算で解いた。このモデル計算の結果は実験値とよく一致し、粒子の輸送過程における壁面沈着を評価するためにはキャリアガスの温度分布の正確な把握が重要であること、および粒子の焼結と蒸発現象が温度と加熱時間だけでなく、粒子径に対しても強い依存性をもつことが明らかにされた。
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