高い活性・選択性を示す固体酸触媒の設計法を構築するためには活性点である酸点尾強度分布を精度よく測定する必要がある。酸強度分布はNH_3の昇温脱離(TPD)スペクトルを用いているが、酸強度の尺度として脱離温度を用いている。さらに、従来の実験条件では脱離過程がNH_3の脱着律速と吸着平衡の状態の中間の状態であるため、解析が困難であった。そこで、本研究では完全な吸着平衡状態でTPDスペクトルを測定する全く新しい実験法を開発すると共に、酸強度分布としてTPDスペクトルからNH_3の吸着エンタルピー分布を求める解析法を提出した。研究成果として以下結果が得られた。 (1)固体酸触媒からのNH_3の昇温脱離スペクトルを用いたNH_3の吸着エンタルピー分布測定法の開発:NH_3を吸着した触媒を定速昇温する際に、脱離するNH_3と比較して数10倍以上のNH_3を含むHeをキャリヤ-ガスとして用いることで、昇温速度が10K/min以下でNH_3の脱離が完全な吸着平衡状態で進行することを明らかにした。この状態で測定されるTPDスペクトルは強度の異なる酸点からのNH_3の脱離の総和で表せるとすると、脱離温度と吸着エンタルピーが、脱離速度と脱離温度をエンタルピーの密度分布関数に関係づけることができる。本方法を代表的な固体酸触媒であるZSM-5、HY型ゼオライトとモルデナイトに適用し、酸強度分布として吸着エンタルピー分布関数を求めることに成功した。 (2)吸着エンタルピーと吸着熱との比較:TPDの測定と同じ条件で熱量計によりNH_3の脱離に伴う吸熱量を脱離温度に対して測定した。また、(1)の方法で求めた吸着エンタルピー分布を用いて脱離に伴う吸熱量の経時変化を計算することができる。両者は非常に良く一致した。また、他の研究者が測定した微分吸着熱の値とエンタルピー分布のピーク値は一致し、これらの結果より、本方法の妥当性を実証した。
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