超好熱菌由来の酵素は非常に熱安定性が高く、ポリメラーゼ連鎖反応の例にも見られるように非常に有用である。更に超好熱菌は、タンパク質の組成や遺伝子の構造において真刻生物と原核生物の中間的な性質を持つことから、真核生物の起源を探る上で興味ある研究対象である。我々は、鹿児島県小宝島より超好熱菌の一種であるPyrococcus属KOD1株を分離することができた。本菌の生育温度範囲は65〜100℃であり、95℃における世代時間は約40分であった。KOD1株において、研究対象とした酵素は、プロテアーゼ、DNAポリメラーゼ、ヒットショックタンパク質(HSP)の3種である。 (1)KOD1株が生産しているプロテアーゼのうち100℃における比活性が最も高い、分子量44kのプロテアーゼを精製した。精製プロテアーゼは、反応最適温度が110℃、100℃における活性の半減期は60分であり、非常に耐熱性に優れていた。また、本プロテアーゼはチオールプロテアーゼに分類された。細菌由来プロテアーゼでチオール型の例は殆どなく、パパイン等植物由来のプロテアーゼに多く認められている点で本菌は、真核生物型のプロテアーゼを生産すると考えられた。(2)DNAポリメラーゼの遺伝子解析を行った。その結果、真核生物に特徴的なイントロンを含んでいることが判明し、アミノ酸配列の相同性も真核生物型に対して高いことが解った。大腸菌組換え体の生産する同酵素は、PCRでの使用が可能な有用酵素であった。(3)熱ショックタンパク質(HSP)は、生物種を越えて存在するタンパク質の折り畳みを触媒する酵素で、その遺伝子及びタンパク質構造を調べることは、生物進化を辿る上で重要な情報を提供する。我々は、KOD1株からHSP60をコードする遺伝子を解析し、タンパク質の精製を行った。その結果、本HSPは、原核生物由来HSPよりも酵母や、マウス由来の真核生物型のものと相同性が高かった。 以上の研究成果を通じて、KOD1株が、より真核生物に近い遺伝子構造を保持していること、更に、酵素類が非常に耐熱性に優れ、応用範囲が広いことが示された。
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