真性粘菌は(1)培養に特別な装置や無菌操作を必要とせず、(2)保存・再利用が容易である。(3)走化性の研究などから幅広い資化スペクトルが予想されるなど環境測定用バイオセンサーの材料として極めて優れた可能性を秘めている。本研究はこれまでバイオセンサーに全く使われることのなかった真性粘菌のバイオセンサー素子としての基礎特性を評価し、全く新しい環境測定用バイオセンサーを開発することを目的として行われた。まず真性粘菌を多孔性のニトロセルロース膜中に固定化しこれを酸素電極先端部に装着することにより呼吸活性測定型粘菌センサーを構築した。まずグルコースに対する応答をもとにこのセンサーの測定条件を検討したところ温度は30°C、流速は3ml/minが最適であり、pHの影響は中性付近ではほとんど認められなかった。このセンサーでグルコースやグルタミン酸に対して良好な検量線が得られた。 一方呼吸活性以外の活性指標として原形質流動の周期に着目した。真性粘菌はダイナミックな原形質流動を示し、その流動は往復運動しており、粘菌の走化性と密接に関係している。この流動の往復運動は一定の周期を持っており糖や塩類によつてその周期が変化することが知られている。ここではこの周期変化を指標として糖類や塩類だけでなく様々な化学物質を測定した。その結果、糖類などでは周期が20-40%減少し、逆に毒性物質では周期の増加あるいは流動の停止が観測された。 最後に呼吸活性測定型粘菌センサーの環境測定への応用としてBOD測定と毒物測定へ適用した。まずモデルBOD廃液を用いてBODセンサーとしての特性を市販BODセンサーと比較した。両センサーの応答値の相関係数は0.992と相関性は高く、粘菌センサーを用いてBOD測定が可能であることがわかった。次にこのセンサーを毒物測定に適用した。重金属イオンなど数種の毒性物質を添加したところ、毒物濃度と相関した酸素濃度の増加(酸素消費量の減少)が観察され定量可能であった。
|