研究概要 |
粘土層間場はイオン性分子を吸着し、濃度及び温度変化に対して安定で大規模な分子集合体を形成する。本研究課題では、この分子会合数を直接反映する反応例としてシス-スチルバゾリウム(1)の光増感異性化反応の高効率化を行った。 この反応機構には、基質間の連鎖的な電子リレー過程が含まれる。このため、粘土層間において吸着分子は近接することが望ましいが、効率的な異性化には適切な空きスペースも必要である。そこで、層間の自由空間の大きさをオレフィンの直接光励起反応における異性化/環化付加生成物比から比較した。サポナイト粘土系では先の報告から2/8であり、異性化のための空間の存在が確認された。しかし、さらに4倍の密度で吸着可能なハイドロタルサイト粘土系では、均一系で異性化しやすい桂皮酸類の場合にも環化付加物だけが得られ、異性化の自由空間がほとんど存在しないことが明らかになった。従って、光増感異性化の反応場には層間の自由空間と良好な光透過性を有する合成サポナイトを使用した。 粘土層間へのインターカレーションは粘土と1の水溶液を混合することにより容易に完了し、粘土層間隙の距離は1の分子長に相当する8.6Åまで拡張された。この値は生成するトランス体や増感剤であるルテニウム錯体を吸着した場合と概ね等しいため、異性化に伴う集合体の構造変化が少なくスムーズな反応が可能となる。この粘土-ルテニウム錯体-1の複合体のコロイド溶液に450nmの光を大気雰囲気下で照射すると、[粘土]=[1]=1mM,[ルテニウム錯体]=1muMの典型的な条件において、反応効率は粘土未添加の均一系と比して100倍に向上し異性化量子収率15が得られた。これは同じ条件下で照射した球状ミセル系の量子収率の3倍に相当し、粘土層間での大きな会合数が反映されることが明らかになった。
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