低原子価ルテニウム錯体とアルキルヒドロペルオキシドや過酸との反応により得られるオキソルテニウム活性中間体の不活性化合物に対する反応性を検討し、チトロクロムP-450酵素類似の酸化触媒反応を開発した。さらにこれらの触媒反応を詳細に検討して生理活性物質をはじめとする有用化合物合成の新手法を開拓した。具体的な研究実績を以下に示す。 1.低原子価ルテニウム錯体を触媒としてオレフィンを過酢酸で酸化すると合成中間体として有用なalpha-ケトールが一段階で得られることを見いだした(式1)。本反応をアリルアセテートやアリルアジド等のオレフィンの隣接位に置換基を有する基質に適用すると、極めて高い位置および立体選択性で反応が進行することがわかった。さらに本反応を鍵反応とすることにより、消炎剤として用いられているコルチゾンアセテートがエピアンドロステロンから短段階で導けることを示し、その合成的有用性を実証した。 2.ルテニウム錯体触媒存在下、置換フェノールをアルキルヒドロペルオキシドと反応させると、式2に従いアルキルジオキシ基の導入されたジエノン体が効率よく得られることを見いだした。さらに得られた生成物をルイス酸で処理するとアルキル基の転位が位置選択的に起こり、相当するキノン類が得られることがわかった。 3.上記研究の過程で分子状酸素とアルデヒドの存在下、低原子価ルテニウムをはじめとする遷移金属錯体からオキソ金属活性種が容易に発生できることを明らかにし、この原理に基づいてアルカンをアルデヒド存在下に酸素酸化するとアルコールおよびケトンへの酸化反応が高効率および高選択的に進行することがわかった。(式3)。
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