研究概要 |
芳香族求核置換(S_NAr)反応は一般に起こり難い反応であり、厳しい条件下で反応を行うか、強い電子吸引基を活性化基として導入する必要がある。しかるに、先に申請者らは、エステル基がo-位アルコキシル基をS_NAr反応に対して強く活性化することを見い出した。このことから、ホスフィニル基(P(=O)R_2)、スルホニル基(S(=O)OR)などのリンまたは硫黄原子団も同様の反応の活性化基となり得ることが期待されるが、従来このような反応は全く知られていなかった。本研究では、これらの官能基を活性化基とするS_NAr反応について検討し以下の成果を得た。 1.2-位にジフェニルホスフィニル基を配した1-メトキシナフタレンへのGrignard試薬、アルコキシド、リチウムアミドなどの炭素、酸素、および窒素求核試薬の反応を検討し、これらの試薬がいずれも温和な条件下で芳香族求核置換反応を起こすことを見い出した。生成物は、キシレン中、トリクロロシランで還元することにより、トリアリールホスフィン類に誘導できた。 2.1.の方法により、近年注目されつつあるビナフチル型単座ホスフィン配位子である2^′-メトキシ-2-ジフェニルホスフィノ-1,1^′-ビナフチル(MOP)の簡便な合成法を確立した。 3.t-ブチルスルホニル基も1.と同様の芳香族求核置換反応の良好な活性化基となることを見い出した。t-ブチルスホニル基は、o-位のメタル化を促進すること、また最近、ニッケル触媒存在下でLiA1H_4による還元、Grignard試薬による置換が容易に起こることが報告されており、本研究の反応を利用することによりアリールt-ブチルスルホンを出発物質とする多置換芳香族化合物の選択的な合成法が確率できるものと期待される。
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