我々は、複数のフッ素アルキル長鎖と柔軟な炭化水素長鎖(オイレル鎖)を合わせ持つ化合物が、炭化水素媒体に対して界面活性を示し、水系の二分子膜に匹敵する分子組織化を発現する事を認めた。この系の組織化は、疎水性力による分子会合と同一視可能であった。即ち、エンタルピー的な疎媒アルキル鎖と媒体の低い溶解性が駆動力となっている。換言すると、これらの自己組織化は、媒体の凝集力が溶質のそれよりも大きい事が引き金となって会合が進行している。二分子膜としての自己組織化に普遍性を持たせるには、この逆の組み合せの系での実証が不可欠となった。 この目的を達成するために、上述した組み合せと逆の分子設計を行った。柔軟な一本のフッ素アルキル鎖を親媒部位、二本の炭化水素アルキル直鎖を疎媒部とする一連の両親媒性化合物を合成した。これら化合物は、パ-フルオロヘキサン等のフッ素系媒体には全く溶解しなかったものの、親媒鎖と同じ骨格の長鎖フッ素誘導体オイル中には良く分散し、数千から数オングストロームのベシクル状会合体を与えたDSC熱分析で認められた零度近傍の吸熱ピークの上下で、これら両親媒性分子の運動が大きく変動することをNMR観察から確認した。これらの結果は、会合体の流動性が、その相転移と深い関係にあることを意味している。組織化の協同性が大きな会合体を与える事が結論できる。 この研究から、「媒体と溶質の凝集力がどちらが大きいか」と言う問題が自己組織化の駆動力では無く、「それらの差の絶対値が重要である」と結論できる。自己組織化「系」として認識する必要があることを本研究で実証した。
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