結晶性高分子の塑性変形は、折りたたみ分子鎖やラメラ晶の微細結晶への破壊による変形、非結晶分子鎖の延伸方向への配向、あるいは、それらの相互作用による非常に複雑なものである。また、これらの変形機構は、材料の種類、変形方法、変形過程、内部構造の違いによって一様ではない。したがって、本研究では、ポリエチレンの単結晶と近似可能な結晶c軸が延伸方向を結晶a、b軸がそれぞれフィルム厚さ方向、幅方向に高度に配向しているロール延伸高密度ポリエチレンフィルムを試料として選択し、このフィルムを再延伸する場合、初期延伸方向との角度によって塑性変形挙動が大きく異なることに注目し、それぞれの変形機構に起因して発生する超音波領域でのAE信号を測定し、AE信号と変形機構及び変形過程との関連性を探ることを目的としている。 実験は、高密度ポリエチレン(三井東圧化学(株)製Hizex5000s)を用い、加熱加圧プレスによって未延伸シートを作成し、ロール延伸(ロール表面速度23.6m/min、表面温度115℃、延伸倍率6倍)したものを試料として、ロール延伸方向と異なる方向に再延伸を行った。そして、発生位置の確認のため試料上下にAEセンサー((株)NF回路設計ブロック製AE-902S、供振周波数140kHz)を取付け、AE測定を行った。 スペクトル分析では、フーリエ変換による手法と最大エントロピー法とを比較した結果、フーリエ変換による場合には、サンプリング数が少ない場合については、スペクトルの分解能が非常に悪くなるが、これに対し、最大エントロピー法では、スペクトル強度に関しては、実際を反映しないものの高分解能のスペクトル分析が可能であった。 今回のようにサンプリング速度やメモリに制限のある場合などにおいて、結晶性高分子材料のAE周波数成分の特定には、有効な手段であると考えられる。
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