著者らの開発した温度傾斜型CO_2濃度処理実験装置(TGT)を用いて、水稲群落に全生育期間にわたるCO_2濃度と温度の複合処理を行った。水稲品種アキヒカリとIR36を供試し、1992及び1993年に2棟のTGT装置内で成熟期に到るまで栽培した。一方のTGT装置は自然CO_2濃度(350ppm)、他方は高CO_2濃度(690ppm)に保ち、各TGT装置内に外気〜外気+4℃の範囲で4温度区を設けた。両年の各処理区、各品種の乾物量を幼穂形成期、出穂期および成熟期に測定した。また、マリオット管の原理を応用したライシメータによって、日々の蒸散量を全生育期間にわたって測定した。 乾物量は両品種とも高CO_2濃度処理によって増加したが、乾物重の高CO_2濃度処理による増加率は温度によって顕著な影響は受けなかった。全生育期間の積算蒸散量は、常温下では自然CO_2濃度区が高CO_2濃度区を上まわったが、高温下では両者の関係は逆転した。積算蒸散量は、ほとんどの区でIR36がアキヒカリを上まわった。水稲群落の水利用効率は、約25℃(外気)の温度条件ではCO_2濃度倍増処理によって42%増加した。この値は温度の上昇とともに減少し、約29℃では23%の増加となった。また、CO_2濃度倍増による水利用効率の上昇率にはアキヒカリとIR36で大きな差は認められなかった。以上より、CO_2濃度の上昇はイネの水利用効率を高めるが、それに高温が重なった場合、その増加率は一般に報告されているよりかなり低くなることが示唆された。
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