研究概要 |
本研究は,水田生態系の水稲生産性を支配している気象と窒素の動態に着目し,それらが水稲の生育・生産過程に及ぼす影響を数理的に説明かつ予測し得るモデルを開発し,各地域の水田の水稲生産ポテンシャルの評価とその阻害要因の摘出を可能にしようとするものである.本年度は,土壌-作物系の窒素の動態を解析する上で重要となる窒素吸収を,根の分布領域からの窒素の供給量と植物体の窒素要求量のバランスから動的に説明するサブモデルの開発を試みた.基礎データ収集のために,群落に近い条件でなおかつ圃場の窒素供給量と類似した窒素量で栽培可能な大容量循環水耕栽培装置を用いて,異なる窒素条件下で栽培試験を行った.供試品種は日本晴である.解析は,同様の試験を行った1990年および1991年のデータもあわせて行った.まず,窒素制限のない状態で栽培されたイネの窒素濃度の推移を発育ステージの関数として表し,最高窒素濃度とする.また,イネの窒素要求量は,最高窒素濃度と乾物の積で求められる最高窒素保有量とその時点の窒素保有量の差として表されるものとした.本モデルは,実際の窒素吸収量がイネの窒素要求量と根圏の窒素供給量のいずれかに律速されることを基本仮説とする(すなわち,窒素吸収速度=Min(要求量,供給量)/時定数).この時定数の最適解を非線形の最小自乗法のシンプレックス法で求めた結果,4.5日程度と推定された.また、本モデルは異なる窒素条件で生育したイネの窒素吸収量を極めてよく説明することがわかった(推定誤差0.96g/m^2,R=0.99).このように,窒素吸収速度は要求量・供給量といった容量因子によって大部分説明されることがわかったが,生育初期には濃度因子の影響も認められたことから,生育初期の濃度因子の影響も検討する必要がある.また,本解析で得られたパラメータは水耕栽培によるものなので,圃場条件への適用性の検討も必要である.
|