紫系のトルコギキョウは、弱光条件下で開花すると花色が薄くなることが現象として知られている。本実験は、花色色素であるアントシアニン生成の光による調節機構を明らかにすることを目的とし、in vitroおよびin vivoの花を用いて実験を行った。さらに、アントシアニン生成の調節酵素とされている、カルコンシンターゼ遺伝子をトルコギキョウからクローニングし、その塩基配列を決定した。 in vitroの実験として、開花直前で着色の始まっていないトルコギキョウの花を花柄部で切除し、5%スクロース溶液を入れたガラス瓶に挿して開花させた。この実験系では、花弁の生長は光の影響を受けなかったが、アントシアニン濃度は弱光によって著しく低下した。 一方、in vivoでは光に対する反応がin vitroの場合とは異なった。植物体全体に遮光処理をした場合には、花色が薄くなりアントシアニンの生成が低下した。しかし、花だけを遮光した場合には、花色は全く影響を受けなかった。さらに、花を遮光せずに茎葉部のみを遮光したときに花色は著しく減退した。 以上の結果は、弱光によるアントシアニン濃度の低下には少なくとも2種類の過程が関与していることを示した。in vitroの実験は、花弁が受ける光の強さがアントシアニンの生成に関係していることを示した。一方in vivoの実験は、弱光により茎葉部が受けた影響により花におけるアントシアニンの生成が低下することを示た。今後は、本実験によって得られたカルコンシンターゼのクローンを利用して、茎葉部で感知された弱光条件がどのようにして、花弁におけるアントシアニン生成に影響するのかを分子生物学的な観点から調査していく予定である。
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