高濃度炭酸ガス環境は、青果物の呼吸活性を抑制し鮮度保持作用を示すと考えられてきた。しかし、筆者らが独自に開発したガス代謝自動計測装置を用いて高濃度炭酸ガスは、多くの青果物で呼吸抑制作用を持たないばかりか、逆に促進する場合もあることを明らかにし、従来の定説には定説には疑問があることを指摘してきた。本研究では、高濃度炭酸ガスに対する呼吸反応の異なるブロッコリー、キュウリおよびニンジンについて、個体レベルとミトコンドリアレベルの両方で酸素吸収に対する高濃度炭酸ガスの影響を測定し、比較検討した。個体レベルの酸素吸収は高濃度炭酸ガスによってブロッコリーでは抑制、キュウリでは促進され、ニンジンでは変化しなかった。炭酸ガス処理後抽出したミトコンドリアでは、いずれの青果物でも個体レベルと同様な反応を示した。また、高濃度炭酸ガスによるTCA回路内の有機酸含量の変化を調査すると、いずれの青果物でもコハク酸の蓄積が確認され、それと代謝的に近接するr-アミノ酪酸の増加も確認された。したがって、高濃度炭酸ガスは個体レベルでもミトコンドリアレベルでも同様に作用し、呼吸代謝に変動を引き起こしていることが明らかになった。さらに、呼吸代謝と関連の深いエチレン生合成に対する高濃度炭酸ガスの影響を、カボチャの傷害誘導型ACC合成酵素遺伝子の発現の面から調査した。その結果、炭酸ガスはmRNAの転写レベルで作用していることが明らかになった。
|