研究概要 |
本研究は雑灌木の侵入がみられる湿性草地を刈り取りによってコントロールし、保全すべき野生植物の生育地として再生保全する場合の刈り取り時期を明らかにすることを目的とした.本調査地の植生はワラビ優占及びノリウツギ優占,コキンバイ優占群落の3群落型に区分された.ワラビ優占群落では,ワラビや木本種ではカラコギカエデとノイバラが野生草花の競合種として認識された.これらの競合種を抑制する効果の最も高い時期は8月刈り区であった.保全すべき野生草花のひとつとして認識したヤナギランとカラマツソウは6月に刈り取られても,その後再生し開花結実が可能であった.しかし7月以降の刈り取りではその後の開花はみられず,優占度が低下し,刈り取りの悪影響がみられた.ノリウツギ優占群落は木本種のノリウツギとウルシが群落の上層を覆っており,保全すべき野草草花の出現がほとんどみられない状況にあった群落型である.この区でも8月刈りが競合種である木本種の抑制に最も効果的であった.また刈り取り処理を行った区ではオトギリソウ,カラマツソウ,マルバダケブキ等の野生草花が新たに出現した.これは刈り取りによって競合種の庇陰の影響が低下し,光環境が改善された結果と考えられた.コキンバイ優占群落での競合種はイヌツゲであったが,この種の成長は緩やかなため,どの時期に刈り取っても,抑制効果は大きかった.一方,主要な野生草花の開花期は5月上旬から下旬の春植物開花期,7月中旬から8月中旬の夏植物開花期及び8月中旬から9月下旬の秋植物開花期の3期間であった.競合種を抑制するためには,ほとんどの種で8月刈りが最も効果的であると判断されたが,この時期は野生草花の開花結実時期と重なるため,既に野生草花の群落が成立している場合にはこの時期を避ける必要がある.反対に野生草花の群落がまだ成立していない場合には,抑制効果の高い8月刈りが適していると判断された.
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