研究概要 |
カイコは胚子期に休眠し,越年する.休眠は食堂下神経節から分泌される休眠ホルモンが発育中の卵胞を刺激することにより引き起こされる.休眠ホルモンは24個のアミノ酸からなる神経ペプチドある. 本研究では,まず,すでに得られている休眠ホルモン前駆体cDNAをプローブとして,休眠ホルモン前駆体遺伝子のクローン化を行い,その一次構造を決定した.休眠ホルモン前駆体遺伝子の上流域と下流域を含む10kbpの領域をカイコゲノムライブラリーからクローン化した.この領域の塩基配列を決定したところ,休眠ホルモン前駆体は6つのエクソンと5つのイントロンから構成されていることが明らかとなった.サザンハイブリダイゼーションにより,休眠ホルモン前駆体遺伝子は,ハプロイドゲノムあたり1コピー存在することが示された. 次に,RT-PCR法により遺伝子発現を調査した.材料とするカイコは休眠卵を産生する条件下で飼育した.休眠ホルモン前駆体遺伝子は食道下神経節のみで発現し,他の神経組織や消化管,脂肪体,マルピーギ管,筋肉組織などでは,発現は認められなかった.後胚子期における発育変動を調査したところ,休眠ホルモン前駆体遺伝子は,4-5令幼虫期に弱く発現し,吐糸期から発現レベルが上昇し,蛹化後4日まで高いレベルが維持された.その後,一時的に発現は減少するが,羽化の1日前にもう一度高いレベルの発現を示した.高いレベルの発現は,休眠ホルモンと性フェロモン生合成活性化神経ペプチドの産生時期に対応していると考えられた.カイコの休眠性は胚子発育期や幼虫期の温度や日長に依存していることが知られている.これらの環境条件が,中枢神経系にはたらき,休眠性を決定する機構を,遺伝子発現の解析および血中ホルモンの微量定量法を用いて解明することが課題として残された.
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