植物細胞の各オルガネラの特徴や機能がオルガネラの分別精製の技術向上に伴い徐々に明らかになりつつある。しかし、機能性を持ったまま分別精製が可能な植物オルガネラはまだ少なく、クロロプラスト、細胞膜および液胞膜などに限られているのが実情である。オルガネラの膜脂質は細胞内を区画化して生理機能を各オルガネラが分担するための場を提供していると考えることができる。膜脂質の合成系は細胞内局在しているし、糖タンパク質などと同様に各オルガネラ間を能動的および受動的に輸送され生体内の特定のオルガネラで修飾を受けることも推察されている。しかし、直物スフィンゴ脂質の代謝(合成と分解)はまったく未解決な課題であり、スフィンゴイドの合成とその後の代謝、構成脂肪酸の鎖長伸長とヒドロキシル化、グルコース転移など不明な点が多い。本研究では、(1)蛍光ラベル脂肪酸誘導体(セラミド)を化学合成する。(2)外因的に植物細胞に蛍光ラベル脂肪酸誘導体を取り込ませ、生体内代謝と輸送を検討することを目的として実験を行った。 1.蛍光脂肪酸誘導体の化学合成を行った。すなわち、アミノラウリン酸をフルオレニルメチル誘導体とした後、スフィンゲニルを反応させてN-12-(アミノドデカノイル)サラミドを合成した。それにlisamine rodamine B sulfonyl chlorideを加えてN-lassamine rhodaminyl-(12-aminododecanoyl)ceramideを合成した。 2.ジメチルスルフォキシドに溶解した蛍光脂肪酸誘導体(1.で合成)と0.9%NaCl水溶液に溶解した0.5%牛血清アルブミンの等量混合液をアズキ培養細胞の培地に加えチェ-ス実験を行った。経時的に細胞を蛍光顕微鏡で検討して、(1)経時的に細胞膜画分の蛍光ラベル脂肪酸誘導体が多く認められること、(2)細胞から蛍光化合物を抽出してケイ酸TLCで調べた結果、蛍光を発し且つアンスロン試薬で発色する代謝産物(糖転移された化合物)の存在を確認した。これらの結果から外因的に取り込ませた蛍光ラベル脂肪酸誘導体は、動物細胞で見られたのと同様の挙動を示すことが考えられ、生体内代謝された後、細胞膜に小胞輸送されることが考えられる。
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