Bacillus brevisを用いた繊維芽細胞増殖因子(FGF)の高効率分泌生産の検討をした。1.FGFにB.brevisの細胞壁蛋白質MWPシグナルペプチドを遺伝子レベルで融合した場合、FGFの有意な蓄積は認められなかったが、シグナルペプチドを改良(アミノ末端に2つのアルギニン残基、中央疎水領域に3つのロイシン残基を挿入)することにより初めて、FGFと思われる産物(抗FGF抗体と特異的に反応する)を確認することができた。この産物の分子量はFGF標品の分子量よりも1000ほど大きかった。シグナルペプチドの切断が予想とは異なる部位で起きており、FGFのアミノ末端に余分なアミノ酸配列が付加していると結論した。以後この産物をFGF'と呼ぶことにする。FGF'は培地画分ではなく、細胞画分に分画された。菌体表面に吸着している可能性を考え、他の蛋白質生産で効果のあった界面活性剤を培地中に添加したが、培地画分へのFGF'の遊離は認められなかった。存在状態を調べるために、菌体の外側からプロテアーゼを作用させる実験を行った。その結果、FGFと思われる産物は外側から加えたプロテアーゼに対し安定であることが明らかとなった。この産物は細胞壁あるいは細胞質膜の内側に存在し、分泌過程のいずれかの段階で止まってしまっていると考えた。FGFは典型的な分泌蛋白質とは異なり、元来シグナルペプチドを持たない。現在もなお、その分泌機構は不明である。FGFは分泌に適さない何らかの構造を有しているのかもしれない。2.FGF発現・分泌プラスミドを安定に保持する変異株の取得に成功し、この変異株を用いることにより、本研究を遂行することが出来た。3.B.brevis由来のプラスミドを用いた生産性の高いベクターの開発については行うことができなかった。4.培地組成、培養温度等、培養条件を検討した結果、5mg/l程度のFGF'の生産に成功した。
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