研究概要 |
本研究は、これまで詳細な研究がなされていなかった海洋無脊椎動物レクチン、特に棘皮動物のマナマコ(Stichopus japonicus)及びグミ(Cucumaria echinata)の持つレクチンの構造と機能を明らかにすることを目的として行った。マナマコからは、2種類のレクチン(SJL-I,SJL-II)を精製し、これらのレクチンの糖特異性を調べたところ、両者はともにガラクトースを認識するものの、細胞表面の糖鎖に対しては特異性がかなり異なっていることが明らかになった。さらに、SJL-Iはマナマコ組織中に比較的多量に含まれていたことから、アミノ酸配列の決定を行った。SJL-Iは143個のアミノ酸残基からなる分子量15,837のタンパク質であったが、この配列をもとに相同性の検索を行った結果、海洋無脊椎動物のC型レクチンとの相同性が認められた。中でも、同じ棘皮動物に属するウニ(Anthicidaris crassispina)のレクチンであるechinoidinとの相同性が最も高かった(28.6%)。SJL-Iとその他のC型レクチンのアミノ酸配列の比較から、よく保存された残基はCa^<2+>や糖との結合に関与しているC型レクチンドメイン(carbohydrate-recognition domain;CRD)のC-末端側半分に多いことが明らかになった。 一方、マナマコと同じ棘皮動物に属するグミからは、CEL-64,-46,-37,-35,-27の5種類のレクチンが得られた。このうち、CEL-37を除く4種のレクチンはいずれもCa^<2+>を活性に必要とするが、このようなCa^<2+>との結合及び糖との結合はタンパク質の構造変化を伴い、トリプトファン蛍光スペクトルや円二色性スペクトルの変化から検出できることが明らかになった。また、CEL-46はウサギやヒトの赤血球に対して溶血性を示すレクチンであり、グミの体液性生体防御機構と深く関係することが示唆された。
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