研究概要 |
水稲「日本晴」の登熟期種子三分の一粒を実体顕微鏡下で解体し、アリューロン層とデンプン性胚乳組織に分離した。それぞれの組織より細胞を回収し、全RNAを単離し、oligo(dT)の結合した粒子を用いて微量mRNAを精製した。mRNAよりoligo(dT) primerを用いてcDNAを合成し、末端にdG-tailを付加した後、制限酵素切断部位を末端に導入可能にデザインしたoligo(dT),oligo(dC)・primerを使用し、PCR法によってcDNAを増幅した。cDNAの末端を処理し、アダプターを連結し、大腸菌plasmidに組み込み、形質転換し、cDNAライブラリーを構築した。およそ1,000個の細胞から100万のcDNAクローンを含むライブラリーを作製できた。そのうち、アリューロン細胞特異的cDNAライブラリーより300bp以上の挿入配列を持つクローンをランダムに13クローン選び、ノーザンブロット法によってアリューロン細胞特異的に発現するクローンを選択し、塩基配列決定を行ったところ6種のクローンに分類できた。データバンクによるホモロジー検索の結果、その中の1つのクローン(RASC8)の推定アミノ酸配列が、大腸菌、酵母、ウシ、ブタ等で既に報告されている酸化還元酵素Glutaredoxinと非常に高い相同性を示した。このcDNAを大腸菌で発現させ酵素活性を測定したところ、Glutaredoxinであることが確認できた。Glutaredoxinが植物においても存在することを初めて示すことが出来た。イネGlutaredoxinは、登熟過程種子のアリューロン層に特異的に発現しており、デンプン性胚乳組織、葉および根では発現していない。このことからアリューロン組織に特異的な機能を持つ可能性がある。また、それ以外にライブラリー中での存在割合の高いcDNAもクローン化出来た。ここで構築した組織特異的cDNAライブラリーを用いることにより、本研究課題で目的としていた組織特異的に発現する遺伝子の単離、解析を非常に効率良く行えることが判った。
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