当初の研究実施計画にしたがい、まず約20種のSSI様インヒビター(SIL)生産菌より精製単離したSILタンパク質の部分的あるいは全体的な一次構造決定を行った。その結果、(1)beta1〜5シートによって形成される構造ドメイン部分、(2)29Arg-113Pheの塩結合、(3)2カ所のS-S結合、(4)15Thr(Ser)-90Argの静電的相互作用部分、(5)2量体形成に関与する13Val、(6)反応部位を後方から支える99Asn、(7)反応部位近傍のP2'Phe(Tyr)-P4'Proのパッキング部分など、SSIの機能構造を形成する上で重要と考えられた部分は高度に保存されていることがわかった。一方、アミノ酸置換・挿入・欠失が分子表面(特にフレキシブルループ)で認められ、それはSIL1とSIL8に顕著であった。また反応部位近傍の配列に差異があり、トリプシンやキモトリプシンに対して阻害能を示すものもあった。すなわち、標的プロテアーゼの基質特異性とこの領域との間に強い相関性のあることがわかった。また、インヒビターの構造相同性と生産菌種間の近縁関係と良い反応があったので、SILインヒビターが進化系統樹作成の生化学的な指標になると考えている。 次に、SSI非生産変異細胞が生産増大するようになったプロテアーゼのうちSSIと相互作用するもの(SAM-P20と命名)の精製・単離を試み、N末端20残基の配列が既知のS.griseus proteaseAおよびBのそれらと高い相同性のあることがわかった。また、クローン化したSAM-P20遺伝子構造から本タンパク質がプレプロ型の前駆体として分泌生産されることが推定された。培養初期に出現するSAM-P20mRNAの鎖長は約2600塩基と長く、発現制御遺伝子とオペロンを成していることが推測され現在解析を進めている。SSIの“真の標的酵素"SAM-P20の過剰生産が実現すると、本来のSILインヒビター群の生理的意義の解明に迫れると考えている。
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