溶血性連鎖球菌の一種Enterococus faecalisには、プラスミド受容菌が分泌するペプチド″性フェロモン″により、供与菌と受容菌の凝集が誘導され、その伝達を活性化されるプラスミドが他種類存在する。これらのプラスミドはそれぞれ構造の異なるフェロモンに特異的に応答する。本研究は、このフェロモンの特異的認識機構を分子レベルで解明することを目的としたものである。 本研究ではまず、性フェロモンに応答するプラスミドの一種であるpPD1により、性フェロモンの受容に関係すると考えられる遺伝子のクローニングを行なった。予想される遺伝子産物の分子量は61kDaと計算された。そのアミノ酸シーケンスは、同じく性フェロモンに応答するプラスミドpAD1、pCF10より既にクローニングされ、フェロモンの受容に関係していることが示唆されているTraC、PrgY産物のシーケンスに高い相同性を示した。そこで、この遺伝子をpPD1のtraCと同定した。これらの遺伝子産物はまた、Bacillus subtilisなどから発見されている、オリゴペプチド結合タンパク質とも相同性を示し、このことから、TraC産物はフェロモンを結合することにより、フェロモンのシグナルの受容に貢献していると考えられた。次ぎに、このtraCの遺伝子破壊を、相同組換えを用いた部位特異的変異導入により行なって、プラスミドpAM351CMを得た。pAM351CMを保持する菌は、野性型のpPD1に比べ5倍量の性フェロモンが、その凝集の誘導に必要であった。このことは、TraC産物は、性フェロモンの感受性に、貢献しているが、必須ではないことを示唆している。 今後タンパク質レベルで、TraCと性フェロモンの相互作用を研究することにより、フェロモンとプラスミド間の特異性の解明に繋がると期待する。
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