食環境の健康への影響を解析的に研究し、健康増進に向けての機能性食品設計の指針を得る戦略として、人体構成細胞のモデルとなる培養分化細胞株における組織特異的遺伝子の発現制御機構を探る研究が試されている。発生の初期に出現する中胚葉細胞は、骨、造血、筋肉、脂肪などの組織の細胞へ広く分化する。この過程こそ栄養・食品科学の中心的な研究対象であるにも拘らず、この中胚葉細胞の出現を制御する因子やそれらの作用機構はわかっていない。本研究では、中胚葉細胞への分化をキメラマウスの系で解析することによって、解析的な栄養・食品科学の新しい分野を開拓しようとした。 マウスの中胚葉は、受精6.5日目頃に外胚葉から剥離した細胞が原条へ移動する過程で形成される。Brachyury(T)遺伝子は、中胚葉で特異的に発現して中胚葉の形成と細胞分化を制御しているので、中胚葉細胞のマーカー遺伝子として捉えることができる。本研究では、我々が胎児性癌細胞を用いた培養細胞系で見いだしたT遺伝子の制御エレメントが、胚中で機能するかどうかを検定した。そのためにまず、T遺伝子5'上流-2400〜+191の領域の制御下でLacZ遺伝子を発現する2つのES細胞株を単離した。これらの細胞を用いてキメラマウスを作製し、原条が形成される時期の胚を解析したところ、本来T遺伝子が発現している原条ではなく、胚体外領域でbeta-ガラクトシダーゼの発現が見みられた。この結果から、胚の中でT遺伝子の正常な発現を誘導するには、in vitroの系で示した以外の領域が必要であることがわかった。
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