研究概要 |
食品蛋白質は熱や酸処理などにより変性した形態で摂食され、各種の腸管免疫を誘導する。変性蛋白質が腸管上皮細胞においてどのようにプロセシングされ、抗原提示されるかは不明である。本研究において、申請者は、まず食品蛋白質の代表である卵白アルブミンの熱変性状態の構造を解析した。従来まで、卵白アルブミン溶液を加熱すると会合体を形成するため、加熱変性分子の正確な立体構造の解析は困難とされてきた。この会合体形成は、溶液の蛋白質濃度、pHおよびイオン強度に左右される。低濃度の卵白アルブミン溶液を低イオン強度下で、pH7.5に調節し、80℃において短時間加熱すると、熱変性しているにもかかわらず単量体で存在する分子を取得することに成功した。熱変性分子の2次構造は未変性分子のそれとほとんど変わらなかったが、芳香族アミノ酸残基近傍の環境は大きく壊されており、分子内部に存在する疎水性領域が露出していることが判明した。また、この熱変性分子は時間経過とともに変性分子と同じ構造に巻戻ることを見い出した。次に、ポリペプチド鎖に結合し、誤った折り畳みや会合が起こらないように蛋白質の機能的立体構造の形成に関与しているストレスタンパク質(熱ショック蛋白質,hsp)を用いて解析した。可逆変性過程の中間体を認識するGroEL(hsp60)が熱変性卵白アルブミンを結合することから、熱変性分子はモルテングロビュール様構造をとっていることを明らかにした。さらに、Hsp70(hsp72,BiP)ファミリーのストレスタンパク質のC末端ペプチド結合ドメインの構造は、そのアミノ酸の1次配列から抗原提示に関与する主要組織適合抗原クラスIのエピトープ結合ドメインに類似していると推定されている。そこで、BiPと相互作用する卵白アルブミン熱変性単量体分子の配列を調べた結果、M末端側22残基のalphaヘリックスを形成するペプチドが結合するという新たな知見を得ることに成功した。
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