鉄欠乏時には、臓器中の鉄濃度が低下するが、特に肝臓では貯蔵鉄のフェリチンを血中に動員するため、Fe^<3+>をFe^<2+>にする際、触媒となるキサンチンオキシダーゼ(XOD)の活性の上昇が報告されている。本研究では、鉄・銅欠乏食投与ラットとも肝中XOD活性の上昇がみられ、鉄欠乏ラット肝では銅の、銅欠乏ラット肝では逆に鉄の蓄積が観察された。このXOD活性の上昇は、同時に活性酸素(O_2^-)の発生増加の可能性を示し、銅・鉄の蓄積も肝臓での脂質過酸化促進の一因となり得ることが推測された。そこで、極微弱化学発光系を応用した過酸化脂質定量システム(CL-HPLC)を用い、肝臓中過酸化脂質量を測定したところ、鉄欠乏による酸化一次生成物であるフォスファチジルコリンヒドロペルオキシド(PCOOH)量の増加がみられたが、TBA法による酸化二次生成物であるTBA反応物質(TBARS)は、逆に減少した(銅欠乏ラットでは両値とも増加)。鉄欠乏ラット肝の鉄量は、正常ラットのそれより明らかに低値を示すことから、鉄が脂質過酸化反応のイニシエーターの一因となることを考えた場合、このTBARSの減少には妥当性があるように思われる。しかし、TBA法は、TBA試薬が生成物であるマロンジアルデヒド(MDA)以外にも金属イオン等と反応し、呈色することを考慮した場合、測定試料中の鉄濃度が問題となってくる。そこで、測定対象となるラット肝ホモジネートに鉄添加を試みたところ、添加量の増加に伴うTBARSの増加を観察したが、CL-HPLC法によるPCOOH量の大きな変動はみられなかった。従って本研究の様な測定試料中の鉄濃度に差がある場合には、PCOOHが示す過酸化脂質量に信頼性を認め、さらに鉄または銅欠乏による肝臓での総脂質・トリグリセリド量の上昇に対し、抗酸化酵素の明確な活性上昇はんみられず、肝細胞ミトコンドリアの電顕像には膨潤、膜の脆弱化が観察されるなど過酸化脂質量増大を誘引し得る結果も得たことから、銅欠乏時のみならず鉄欠乏時においても脂質過酸化反応が促進されることの妥当性を確認した。
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