樹木の形成層活動は、顕著な季節的変動を示す。その変動を制御する主要因として、オーキシンの量的変動が重要視されている。一方、量的変動が形成層活動を制御するという説とは別に、形成層細胞自体のオーキシンに対する反応性が変化し、この反応性の違いが形成層活動の季節的変化を導くという説が報告されている。この反応性の本質に関しては依然明らかにされていないが、反応性が異なる原因の1つとして、オーキシンの形成層帯での輸送様式や存在状態が季節的に変化することが考えられる。そこで本研究では、形成層帯でのオーキシンの濃度局在及び移動速度を検討した。まず、形成層領域に存在するオーキシンの濃度分布を調べた。供試木はトドマツを使用し、形成層活動が活発な期間に師部、形成層帯、木部等を含む小ブロックを樹幹より採集し、直ちに液体窒素で凍結した。木口面切片により構成組織の位置関係を確認した後、樹皮側より100mum厚の連続板目面切片を切り出しメタノールで抽出した。抽出液には、内部標準としてオーキシンの同位体標識化合物を一定量加え、さらに各種精製処理を行い、最終的には選択イオンモニタリング法で定量した。その結果、オーキシンは形成層帯において多く含まれ、次いで分化中の木部帯に含まれていた。一方、外樹皮や木部では検出されなかった。この分布パターンは、形成層活動が持続している期間ではほとんど変化がなく、従ってオーキシンの濃度局在の変化が形成層細胞の反応性の変化に関連している可能性は薄い。しかしながら、本研究の結果では細胞レベルでの局在については不明であり、今後、オーキシンの検出感度や試料の調整方法の検討が重要である。次に、オーキシンの移動速度について研究に着手したが、本研究では放射性同位体の代わりに、扱いが容易な安定同位体を用いて移動状態を検出しようと試みた。しかしながら、検出感度が十分ではなく正確な検出には至らなかった。
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