研究概要 |
樹木リグニン前駆物質であるモノリグノールの供給源としてそのグルコースグルコシドであるコニフェリンやシリンギン等が考えられる。これらの配糖体は樹液中に存在し、リグニン生合成の前駆物質の輸送と貯蔵機能を担っていると考えることができる。本研究ではモノリグノール配糖体の挙動を放射性同位元素トレーサー法により検討した。 コブシ樹幹におけるコニフェリン、シリンギンの存在量を高速液体クロマトグラフ法により測定した。師部は、木部よりかなり多量の配糖体を含んでいた。これらの存在比は木部ではコニフェリンの方が高いのに対し、師部側では逆転していた。 コブシ木部にコニフェリン-[beta-^<14>C,gamma-^3H,^3H](Gリグニンの前駆物質)を投与し代謝させた。新生リグニンのチオアシドリシス分解生成物を単離し放射活性を測定したところ、^<14>C活性に加え^3H活性が、投与前駆物質とは異なったリグニン構造単位であるS核にも認められた。標識シリンギンを投与した場合、グアイアシル核への転換はなかった。また、コニフェリン-[beta-^<14>C,Glc-^3H]を投与し代謝されたコブシ樹液中のシリンギンにおいて^3H、^<14>Cの放射活性が認められた。しかも、その^3H/^<14>Cの値は投与した前駆物質の値とほぼ一致しており、投与したコニフェリンはグルコースを伴ったままシリンギンへと転換したことを示唆した。以上の結果よりコニフェリンは側鎖末端(gamma位)がアルコールの状態で、しかもグルコースを保持したままメトキシル基が導入されシリンギンとなることが示された。このような経路はいままでに報告されていない。さらにこの経路はメトキシル基の増加する方向へのみ転換し、減少する方向へは転換しないことも示された。本研究の結果、樹液中に多量に存在するモノリグノール配糖体はリグニン前駆物質のプールであるばかりでなく細胞壁へ供給されるモノリグノールの組成を制御する機能を持つことが明らかとなった。
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