魚類の主要組織適合抗原複合体(MHC)を研究することは、数々の疾病に対する予防や育種および系群識別においてきわめて重要である。しかし魚類におけるMHCの研究はほとんど行われていない。そこで水産上重要魚種であるシロザケおよびカラフトマスのMHCの遺伝子のクローニングをPCR法を用いて行った。シロザケは岩手県、カラフトマスは北海道よりサンプリングを行い、それぞれ定法に従ってDNAを分離した。MHC遺伝子のクローニング方法としてタイセイヨウザケでクローニングされているMHCクラス1遺伝子の塩基配列をもとに6種類のプライマーを作成し、各ドメインのクローニングを試みた。その結果MHCクラス1遺伝子のalpha-1ドメイン(約260塩基)のクローニングを行うことができたが、その他のドメイン(alpha-2及びalpha-3)はできなかった。そこでクローニングできた部分の塩基配列の決定を試みた。その結果シロザケのMHCクラス1遺伝子は、タイセイヨウザケとくらべると222塩基中9塩基の違い(アミノ酸で74個中4個)が見いだされた。一方カラフトマスのMHCクラス1遺伝子はタイセイヨウザケと、222塩基中8塩基の違い(アミノ酸で74個中5個)が見いだされた。さらにシロサゲとカラフトマスでは、222塩基中10塩基の違い(アミノ酸で74個中7個)が認められた。さらに同一個体においての変異をシロザケで確かめた結果、6クローン中3クローンにそれぞれ1塩基の相違が見られ、これらの変異はすべてアミノ酸も変異を伴っていた。従ってほ乳類において見られるMHCの多様性は、魚類においても存在する可能性が示唆された。
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