琵琶湖北湖における現場調査の結果、本種幼生の鉛直分布深度は、主として躍層以浅に限られることが窺われた。琵琶湖北湖の水温躍層を人工的に再現した水槽内において幼生の鉛直移動を観察したところ、この現場調査の結果と矛盾しない鉛直行動パターンが得られた。幼生は、日中は躍層付近の狭い深度範囲に分布し、日没から日出までは表層混合層に散らばっているものと考えられる。躍層以深に分布しないことは、低い水温をさけているためと考えられた。既往の研究において推測されていた幼生の脱皮ステージによる鉛直分布パターンの違いは、本研究では認められなかった。北湖で成層期に発達する表層の水平順環流による分散過程は、数値実験による推測が可能であるが、水平分散の数値実験には、このように顕著な日周鉛直移動を考慮に入れる必要があることが明らかであった。得られた日周鉛直移動パターンも含め、鉛直分布が時間とともに変化する様な種々の鉛直分布パターンをいれて水平分散過程を計算してみると、約1月の浮遊期の間、本種幼生が分布深度を能動的に制御した場合、水平遊泳力がきわめて乏しいにもかかわらず水平分散過程において定方向への移動をすることが可能性として考えられた。
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