本研究では、まずはじめは農業農村整備事業費の相対的重要度を明らかにするために他の予算項目(生活保護費、義務教育費、防衛関係費、住宅対策費、経済協力費)との選好関係を1対比較により明らかにし、農業農村整備事業費のあるべき予算額を算出した。さらにこの農業農村整備事業費の配分をめぐって、いかなる公益的機能のに関連する予算配分をおこなうかの選好を1対比較により明らかにし、各機能への維持発展費用を算出し、公益的機能の評価を試みた。 分析の結果、農業農村整備事業費のあるべき予算額について1対比較をもちいて明らかにした結果は、これまでより農業農村整備費の増加が容認されることが明らかになった。それによるとたとえば農業農村整備事業費の平成7年度におけるあるべき金額は9765億円となる。 この予算額に対して各公益的機能の維持発展のためにいかなる配分をおこなうか、1対比較を用いて検討した。選好の選択項目には、浦出らを参考に次の6個の項目に限定した。それは農林産物供給機能、国土保全機能、大気保全機能、生物保全機能、アメニティ機能、地域人口維持機能である。1対比較の場合は項目が増えすぎると、質問項目が多くなり過ぎて、首尾一貫した回答が得られない可能性があり、選好関係を明らかにする項目を6個に限定した。またアンケートの回答者は福岡県内にすむ20代以上の都市住民100名にしぼり、その100名の男女別年齢別分布が福岡市の男女別年齢分布と一致するようサンプリングし、できるだけ回答結果が県内の都市住民の平均的意見に一致するようつとめた。各公益的機能の相対的重要度の平均値は農林産物供給機能で26.1%、国土保全機能で18.8%、大気保全機能で21.2%、生物保全機能で15.5%、アメニティ保全機能で8.1%、地域人口維持機能で9.8%である。これをもとに各公益的機能の農業農村整備事業費を用いての維持発展費用は農林産物供給機能で2548億円、国土保全機能で1835億円、大気保全機能で2070億円、生物保全機能で2548億円、国土保全機能で1835億円、地域人口維持機能で956億円となる。福岡県在住の都市住民の選考では非農林業機能の中で、大気保全、生物保全といった機能に対する支出が国土保全、アメニティといった地域住民に直接的に便益を感じるものと同等またはそれ以上の支出であってもかまわない結果を示している。これは農林業の位置付けが生物資源保護、環境保護・保全としての重要な場であるという認識が強いことを示していると言えよう。
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