本研究では内臓平滑筋を支配している壁内神経細胞にイオンチャネル活性を調べると共に、抑制性神経ペプチドのvasoactive intestinal peptide(VIP)含有神経に対するコリン作動性の制御機構を検討した。1.単離ラット小腸壁内神経細胞の膜電流をホールセルパッチクランプ法により測定した。保持電位-60mVからの脱分極刺激により、テトロドトキシンとテトラエチルアンモニウムによって抑制される電流反応が生じた。このことから、壁内神経細胞膜には電位依存性Na^+及びK^+チャネルが存在することが示された。2.アセチルコリン(ACh)は電流ノイズを伴った内向き電流を発生させ、これはヘキサメトニウム(C6)及びアトロピンにより抑制された。3.壁内神経細胞内のCa^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)をfura-2法により測定した。AChは著明な[Ca^<2+>]iの上昇を引き起こした。[Ca^<2+>]i増加反応の外液Ca^<2+>依存性を調べた結果、ニコチン受容体を介する反応は細胞外からのCa^<2+>流入より生じるが、ムスカリン受容体では細胞内貯蔵部位からのCa^<2+>放出も引き起こすことが明らかになった。4.壁内神経叢を含む摘出標本からのVIP放出を、ラジオイムノアッセイ法により測定した。高濃度K^+やNA^+チャネル活性化のベラトリジンは有意なVIP放出を引き起こした。5.AChは濃度依存性にVIP放出を引き起こし、この作用はC6で僅かに抑制され、アトロピンで完全に消失した。6.以上の成績から、壁内神経細胞の興奮性は膜電位依存性イオンチャネルにより制御されていると共に、ニコチンとムスカリン両受容体を介したコリン作動性制御も受けており、これら受容体は異なったCa^<2+>動員機構により機能していることが示唆された。また壁内神経内にあるVIP含有神経は主に、ムスカリン受容体を介したコリン作動性入力を受けていることが示された。今後は、VIP含有神経を同定し、この細胞におけるイオンチャネル活性、細胞内Ca^<2+>動態について調べて行きたいと思っている。
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