ボツリヌス神経毒素は、シナプス前部からの開口分泌を抑制し、神経刺激を遮断することにより作用を発揮する。毒素の持つ致死活性と毒素の神経への特異性は極めて高く、シナプス前膜に存在するレセプターへの結合力の強さと選択性によるとされている。毒素活性を抑制する神経細胞膜成分の検索結果から、ガングリオシドと呼ばれる糖脂質がレセプターとしての可能性を持つことが示されて来た。本研究では、毒素分子上のガングリオシド結合部位の同定を試み、毒素とガングリオシドとの結合反応様式を分子レベルで把握することを目的に実験を行ない、以下の成果を得た。 1.ガングリオシド結合部位の同定:シリカゲルにガングリオシドを吸着させ、毒素を添加後、タンパク分解酵素を作用させようとしたが、シリカゲルへの非特異吸着が強く、ガングリオシド結合部位以外の完全消化ができなかった。支持体をC18の逆相系に変えてガングリオシドを固定化したところ毒素の特異吸着が観察された。トリプシンを作用させ、洗浄後、ガングリオシドと結合している未消化部位を分離しようとしたが、通常の高イオン強度、低pH緩衝液では分離できなかった。現在、界面活性剤を用いてガングリオシド結合部位を可溶化し分離する試みをしている。 2.ガングリオシドと毒素との特異結合:溶液中でガングリオシドと毒素が結合することにより、毒素分子のトリプトファンからの蛍光が消失する現象を発見した。このことは、毒素のガングリオシド結合部位にトリプトファン残基が存在することを示している。既に明らかになっている毒素のアミノ酸配列から、毒素のC末端50アミノ酸以内に3残基のトリプトファン残基があることから、毒素のガンクリオシド結合部位はC末端に非常に近接していることが推察された。
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